私たちの心に生きる希望を届ける【詩集】

おすすめ本

『少年少女に希望を届ける詩集』
【書評】希望に満ちた未来へー共に希望を語ることー

昨今のテレビやネット、新聞は、悲しいニュースで溢れかえっている。いじめや虐待によって尊い子どもの命が奪われる残虐な事件が後を絶たない。
現代社会の闇が浮き彫りになる中、今を生きる少年少女たちが《希望に満ちた未来》を想像するのは容易ではないだろう。
深い苦悩を抱えてしまった少年少女たちに「かつて子どもだった私たち大人は、心の底から《生きる希望の言葉》を発することが出来るだろうか」

これは、本書の呼びかけ文の一文である。
私はこの呼びかけ文に自らが悩み苦しんだ思春期を思い出した…。

 

柔らかい心が敏感に反応する、思春期は周りの影響を受けながら一人の人間として自分を確立する大事な時期だ。私たち大人は、大人に成長した今だからこそ伝えられる言葉があるのではないだろうか。

呼びかけに心を動かされた大人たちが、それぞれの想いを寄せる。本書は、教育関係者、詩人、作家、評論家、物故詩人など、200人が集結した詩集である。いじめ、環境問題、親心を綴ったもの、教師から生徒へ向けた想い、戦争、未来へのメッセージなど、多様な視点で構成されている。〈人間の原点的な視野を反映させた〉章タイトルにも注目したい。

十章に分けられた詩を章ごとに振り返り、特に心に残った作品を紹介させて頂く。

編者 曽我貢誠,佐相憲一,鈴木比佐雄 出版社 コールサック社

 

第一章 【学ぶ】

市川つたさん『十点満点』
人は皆、〈誰にも負けない/すっごく素敵なところが必ずある〉自分の良いところを見つけ出し大事に育てていこう、という導きの言葉が胸を打つ。思春期は心の成長と共に自分の存在価値を見いだす大切な時期だと思うが、そんな少年少女たちに〈得点十点 欠けた人はいないんだもの〉と、誰もが十点満点だと教えてくれる。

第二章 【歩む】

山田透さん『ハッちゃんの笑顔』
〈学校では一言もしゃべらない女の子〉ハッちゃんの、力強い生き方を見つめている。〈ハッちゃんは病気の両親と小さい弟のために/夜遅くまで働く〉〈小学四年生のころから 毎日毎日/身を削るような戦いをしている/学校に来ている時が ハッちゃんだけの時間なのだ〉笑顔を絶やさず前向きに生きる彼女の姿は、とても眩しい。

第三章 【立つ】

服部剛さん『僕等の道』
我が子をありのまま受け入れ、〈いかなる天気の日にも/僕等の道を一緒に歩み/僕等の歌を一緒に歌おう〉という親心に、溢れんばかりの愛を感じる。

曽我貢誠さんは、いじめ問題を真っ向から見つめている。
『いじめられている君へ』では〈「助けてください」と先生のところに行きなさい/それがうまくいかないようなら/「いじめられています」と親に言いなさい〉と、いじめから抜け出すにはどうすればいいのか、あらゆる方法を順に教える。詩の中にいじめ相談電話という全国統一の番号を記し、当事者にいちばん必要な情報を伝えている。
『いじめを見ている君へ』では、〈大多数の人の無関心と沈黙の同意が/さらなるいじめを生んでいくのです〉という詩句が切実だ。いじめに直接関わらない人々も決して他人事ではない。一人一人がそう自覚し、いじめが生まれない空気を作る事が大事だと気づかされた。
『いじめている君へ』では揺さぶりをかける厳しい言葉の中に…優しさが感じられる。どうしていじめているのか、いじめる側の心にも触れ〈いじめは犯罪です/いじめは人の心を破壊します/まだ間に合います/本当の強い人間になるために/今すぐ、勇気を持ってやめて下さい〉と締めくくる。

第四章 【こころ】

青山晴江さん『切手なしの…』
切手を貼り忘れた封筒が舞い戻ってくるように…〈わたしの あやまちのすべてが/ゴム輪で束ねられて/そっくり そのまま/返ってきてはくれまいか〉と、封筒から心の世界が広がってゆく。歩んできた道を真っすぐ見つめる詩は、心に深く染み入る。

第五章 【いのち】

山本周弐さん『一度きりの人生』
〈人生投げたら その人は生きてない/死んではないけど生きてない〉という言葉には、今という時を大事に生きる山本さんの姿が伺える。十九年間余に及ぶ闘病生活の中で書かれた詩群は、私達に多くの気付きをもたらし勇気を与えてくれる。

第六章 【希望】

佐相憲一さん『がんばりやさんに捧げるうた~傷の応援歌~』
繊細で敏感な心をもつ子どもにも伝わる、細やかな心配りのある詩だ。ひらがなで書かれた文面は優しさで溢れている。〈〈いきていてね〉/それしかいえない/それこそいいたい〉という最後の詩句には、子どもの心をしっかりと受け止め応援する姿が感じられる。

駒瀬銑吾さん『想像教育で生まれた中学生の詩』
駒瀬さんは「想像力こそが心を育てるものだ」と主張し、現代詩の手法を使う詩教育を三十年に亘って、中学校で実践された方である。発想力が豊かな八名の中学生の詩群を紹介し、詩の魅力を伝えている。人を思いやる気持ちは、相手の気持ちを想像する所からうまれるのではないだろうか。人間関係の構築や、自分自身を見つめる作業にも想像力が必要だ。駒瀬さんの想像教育は、生きてゆく上で一番大切な事を教えてくれている。

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第七章 【家族の中で】

小田切敬子さん『森のむこうからくるバス』
スマホゲームに夢中になり、周りが見えなくなる現代の悲しい風景が描かれている。下校生徒たちで満席になった車内には〈杖をついたちいさなおばあさん〉も〈あかちゃんをだいた/わかいおかあさん〉もいるのに、生徒たちは画面の中の冒険に夢中なのだ。

熱中できるものがあるのは素晴らしい事だと思うが、私達が生きている世界は画面の中だけではない。現実の人との関わりや、支え合う心はいつの時代も大切だと思う。この詩を現代の少年少女たちはどう受け止めるのだろうか…。

こまつかんさん『このてのひら』
〈てのひらを/あわせると/この世と/あの世が/むすばれる〉母の月命日に〈ひょっこりとあらわれた〉蝶との出逢い風景が美しく描かれている。蝶の存在を感じながら〈暮らしのなかで/常になにかに見守られていること/どんなときも自分は一人ではないことに/気付いた〉と語っている。

第八章 【自然の中で】

日高のぼるさん『くすりの森』
人間による自然破壊で〈鳥や虫や草や木は/いのちの置き場を失い/人間は夏の暑さをしのぐ場を失い/樹木から発する新鮮な空気を失いました〉〈子どもたちの歓声が/走り回る姿が消えました〉と述べ、人間の欲望の肥大化が地球資源を使い果たした事を伝えると共に、かけがえのないものを失った悲しみを表現している。

第九章 【世界の中で】

日下新介さん『空襲を知らない少年に』より
〈わたしは 憲法九条のもと/再び戦争をしない道を歩いてきたが/政府は またぞろ/新しい戦争の準備に懸命なのは/なぜ?/少年よ これでよいのか!〉

第十章 【未来】

長田邦子さん『パン屑を拾いながら』
人生の道標を、一つ二つとパン屑を撒くように示してゆく。〈きみが絶望した世界に希望があることがわかるよ〉という詩句のように、迷い苦しむ心が解き放たれる救いの言葉が書かれている。子どもたちに〈今はわからない 私だってわからなかったから/でも今はわかる/だから遠い先まで生きておいで〉と、優しく包み込む。

籠空朋果さんの『メッセージ』は、独特な空気感で精神世界を描いている。〈増してゆく暗闇の中で/間違いを ぎこちない手で掴み/敏感になった心でうなずき/隙間にその手を入れれば/呆気なく破壊されてしまう〉と、苦しい現実に自分を見失いそうになりながら、それでも〈《ぼくは 確かに/ここに居るよ》〉と、自分の存在の意味を確かめる。〈果てなき夢の また向こうへ…〉夢を持つ若者に、詩の心でエールを送っている。

 

少年少女に希望を届けたいと願うとき…誰もがかつては少年少女だったことを思い出す。本書は、心の原点を見つめ直すきっかけを与えてくれる詩集だ。
人生の先輩方が書いた詩は、心の底から子どもたちの幸せを願っている。その想いを、子どもは敏感な心で感じ取るのではないだろうか。子どもたちが真っさらな瞳で大人を見つめたとき、心の居場所になれる大人でありたい。

編者の一人の曽我貢誠さんは「希望は人に届けるものではなく、本人が心の中で感じ自覚するものです」とおっしゃっている。詩は、人間関係が希薄化する現代社会で人と人の心を繋ぎ、心を豊かにするものだと思う。様々な人の詩に触れることで、心の視野も広がってゆくのではないだろうか。

本書は人の心に寄り添い共に希望を語ることで、未来へ光を繋いでゆく…

私たちの心に生きる希望を届ける詩集である。

編者 曽我貢誠,佐相憲一,鈴木比佐雄 出版社 コールサック社

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